私は2023年6月より2026年3月まで、米国中西部ミネソタ州にあるUniversity of Minnesota に研究留学させていただきました。
University of Minnesotaは1851年創立の州立大学であり、医学・工学をはじめとする多分野で世界的な研究実績を有しています。私が所属したPaparella Otopathology & Ear Pathogenesis Laboratoryは、1967年に故Michael Mauro Paparella教授によって設立された研究室で、世界有数のヒト側頭骨標本コレクションを有しています。前々任の野垣岳稔先生・前任の竹内美緒先生に続き、同研究室への50人目の日本人リサーチフェローとなりました。
私は主に、耳硬化症における病変進展パターンや、蝸牛型耳硬化症における蝸牛内病変の組織学的評価をテーマに研究を行いました。ヒト側頭骨標本を用いて、耳硬化症に伴う蝸牛内の微細な病理変化を定性的・定量的に評価し、画像所見や臨床像と結びつけることで、疾患理解の深化および蝸牛インプラント手術における臨床的知見への橋渡しを目指しました。
さらに、長期罹患糖尿病が中耳構造へ及ぼす影響の検討、先天性内耳奇形症例の側頭骨病理の概説、前任の竹内先生との共同研究として頭部外傷が前庭有毛細胞に及ぼす影響の解析など、複数のテーマに取り組みました。
私自身、これまで耳科学手術を専門としてきたわけではなく、側頭骨研究も初めての経験でした。そのため、留学当初は研究計画の立案から標本評価法の確立まで試行錯誤の連続でした。ヒト病理標本を扱う研究では、正常解剖や他疾患との比較を含む基礎的知識の積み重ねが不可欠であり、適切に検鏡できるようになるまで多くの時間を要しました。しかし、この過程で得た解剖学的理解や病態把握は、現在の臨床診療においても大きな財産となっています。
指導教官であり恩師でもあるSebahattin Cureoglu教授、研究メンターであり大切な友人でもあるRafael Monsanto博士、Nevra Keskin博士をはじめ、ラボの仲間たちの支えのもと、かけがえのない3年間を過ごすことができました。
研究を進める中で、改めて感じたのは、多くの方との議論や協力があってこそ新しい発見にたどり着けるということでした。異なる専門性を持つ同僚や他施設の研究者との対話を通じて視野が広がり、自分一人では思いつかなかった発想に触れることができました。そうした環境で研究に向き合えたことも、留学生活の大きな魅力の一つでした。
こうした経験を通して感じた、Paparella Otopathology & Ear Pathogenesis Laboratoryでの留学生活の魅力について、いくつかご紹介したいと思います。
Paparella Otopathology & Ear Pathogenesis Laboratoryでの留学生活の魅力
- 集中して研究・論文作成に取り組める環境
ヒト側頭骨病理は、日常診療で遭遇する難聴やめまいの病態を実際の組織所見から検証できる分野です。大規模なヒト側頭骨コレクションを有する研究室は世界的にも限られており、臨床で抱いた疑問を病理学的に確かめることができる環境は非常に貴重です。既存のHE標本を用いた研究が中心であるため、明確なテーマ設定ができれば、限られた留学期間でも十分に成果を挙げることが可能です。
- 国際的な人的ネットワーク
国際学会での発表や日常の研究活動を通じて、世界各国の研究者と交流する機会に恵まれました。異なる文化や研究背景に触れることで、自身の研究観や価値観は大きく広がりました。帰国後も続く人的ネットワークは、今後の研究活動において大きな財産となっています。
- 自律的に時間を設計できる環境
研究を自分のペースで進めながら、必要に応じて同僚と議論し、関心に応じた学びを深めることができます。研究と向き合う時間は、自身を見つめ直す貴重な期間でもありました。特に、Nevra Keskin博士との共同研究として、ヒト側頭骨標本とラットやチンチラなど小動物標本を比較検討した中耳炎研究は、非常に印象深い経験でした。
留学は決して特別な人だけの選択肢ではありません。日々の診療の中で「なぜだろう」と考える姿勢があれば、その延長線上に研究があります。昭和医科大学耳鼻咽喉科頭頸部外科学教室には、その挑戦を支える土壌があります。
臨床も研究も、決して特別なものではなく日々の積み重ねだと考えています。
志を同じくする皆さんと、一緒に歩んでいけたら嬉しく思います。