先輩医師からの
メッセージ

留学体験紀

洲崎 勲夫
(平成23年入局)

 私は2014年4月よりUnited States, Virginia州の州都Richmondにある Virginia Commonwealth University (VCU)のPediatricsへ留学中で、渡米して現在約7ヶ月が過ぎたところです。同年3月まで、当講座の先輩である時田先生が留学されていた研究室に、引継ぎという形で来ました。VCUは1838年に創立された総合州立大学で、Virginia州で3番目に大きな大学です。研究に重点を置く大学として知られ、大学院では芸術学部 (彫刻)と保健管理学部が全米トップレベルの評価を受けています。
 私の研究室のPrincipal Investigator であるBruce K. Rubin 教授は小児科医で慢性気道炎症性疾患、繊毛クリアランスをご専門にもつ大変ご高名な方です。私はRubin教授のご指導の元、「気道上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞におけるPeriostinの発現とその影響」という研究テーマで、基礎研究に励んでおります。当研究室は気道炎症性疾患、粘液分泌といった研究が盛んで、Mucus Labの異名を持っており、最初はそのストレートなネーミングに大変驚きました。日本からは、防衛医大をはじめとした呼吸器内科医の先生方や、VCU, Pediatricsのresident、post-graduate studentなどが出入りをしていますが、耳鼻咽喉科医は私だけです。臨床研究では、VCUのOtolaryngologyとコラボレートする機会もありますが、lab meetingでは呼吸器疾患を中心とした専門性の高いdiscussionが多いため、耳鼻咽喉科医である私には特に難しいことも多いですが、非常に勉強になります。また、日本では得られなかったであろうコネクションや知識などを得る機会が沢山あるので、とても刺激的な毎日です。
 研究以外には、Bossの方針で英語論文の書き方のトレーニングとして、ESL (English second language)のwritingの授業を受講しています。週5日、毎日1時間半の授業かつ、宿題やテストもあるので、決して楽な日々とは言えませんが、他のlabのポスドクの方々にはなかなかそういった機会はないので、大変勉強になります。
 RichmondはForbes誌で「ビジネスや仕事関連で住むのに適した街」のTop20に挙げられている都市ですが、日本の方は十中八九「聞いたことはあるけれど、どこだか良く知らない」とお答えするくらいあまりなじみの無い土地だと思われます。Richmondへ日本からの直通便は無く、VCUに現在留学中の日本人ポスドクは私を含めて、約5, 6人です。その分濃密なお付き合いをさせていただき、研究、私生活共に大変お世話になっております。場所は東海岸にあるので、北はNew York、南はFloridaなど休暇中には足を伸ばしてみることも出来ます。私は思い切って夏休みにLas Vegas とGrand Circleへ行き、研究生活で溜まった雑念を全て地の果てに置いてきました。
 日本にいると当たり前のことが、こちらでは通用しなかったり、カルチャーショックを受ける事も多いですが、離れてみて初めて日本の素晴らしさを再確認できたりすることもあります。若手のうちに海外で留学生活を送ることは将来の臨床医としてはもちろん、人間として成長できる大変貴重な機会であると感じております。このような機会を得る環境が昭和大学耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座にはあります。将来、当講座でみなさんと一緒に働けることを楽しみにしています。

時田 江里香
(平成21年入局)

 2011年11月から2014年3月までVirginia Commonwealth University (VCU;ヴァージニア州立大学)に留学させて頂きました。小児呼吸器、特にムチンを中心に研究をされているRubin先生の研究室で鼻科学の基礎研究と臨床研究をさせて頂きました。具体的には、ウテログロビンのムチンに対する効果、上気道と下気道におけるムチン・炎症性サイトカインの違い、急性鼻炎におけるムチンと症状の関係(臨床研究)、小児慢性副鼻腔炎におけるGuaifenesinの効果(臨床研究)についてです。
 VCUのあるヴァージニア州は日本ではあまり馴染みのない場所かもしれませんが、植民地時代から南北戦争までアメリカの歴史では重要な州です。リッチモンドはヴァージニア州の州都で、東海岸の南部にあり、ワシントンDCから車で2時間くらいの場所にあります。VCUはリッチモンドにあり、1854年創設で医学部と芸術学部(全米でトップ5)が有名です。VCU Medical Centerは865床の病院でこの地域唯一の外傷診療施設、Cancer CenterとChildren’s Hospitalが併設しています。
 耳鼻咽喉科に入局し、大学院卒業後の間もない時期に、このような貴重な留学経験をさせて頂いたことは、今後の自分の方向性を見据えるためにおいても非常に有意義でした。研究を組み立てて、毎週のミーティングでRubin先生をはじめ、他科のスタッフと話し合い、実験結果をまとめて論文を書き上げるのは非常に難しく、最終的に予定の2年間から数ヵ月、滞在を延長させていただきました。留学当初に始めたウテログロビンについての論文が帰国直前にAcceptされたときは、ほっとしたのを覚えています。
皆様の助けを借りてアメリカでの留学生活を終え、現在帰国して約1年が経とうとしていますが、日本にいたら学べないような貴重な経験を得ることで、臨床医としても成長することができたと実感しております。これからのグローバル化には英語は必須だと考えられ、留学に限らず国際学会など、英語を使う環境に身を置くことが出来る機会があることは貴重だと思います。今後、留学経験で得た知見を少しでも大学に還元できるように、後輩の指導、研究に精を出していきたいと考えております。また私の留学体験記が、昭和大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座に入局することを考えている方々の参考になれば幸いです。

許 芳行
(平成13年入局)

 2008年11月から2010年10月までの2年間、USA東海岸フィラデルフィアのDepartment of Physiology and Lung Center, Temple University School of Medicineのムチン、特にMUC1に関する世界的研究者であるKwang Chul Kim教授のもとで気道上皮細胞におけるMUC1ムチンの抗炎症作用についての基礎研究に従事させていただきました。Temple Universityは、1884年に創立されたペンシルベニア州立の総合大学で、Lung CenterはUS News & World Reports選出の呼吸器病Best Hospitalsの一つに選出されており、特にCOPD治療では定評があります。留学当初は特に研究面における知識・技術が大きく不足していて苦労が絶えなかったのですが、周りの多大なるサポートのおかげもあり、2年間の研究成果をAmerican Journal of Respiratory Cell and Molecular Biologyに論文掲載(Antiinflammatory role of MUC1 mucin during infection with nontypeable Haemophilus influenzae)という形でまとめることができました。
 フィラデルフィアは、ニューヨークとワシントンD.C.にはさまれた人口全米第5位の大都市で、合衆国建国ゆかりの地だけあって1776年に独立宣言が採択されたIndependence Hall、自由の象徴Liberty Bell、City Hallなど歴史を感じさせる建物も多数あります。一部地域の治安の悪さは難点ですが、フィラデルフィア・フィリーズ(MLB)をはじめ、イーグルス (NFL)、76ers(NBA)、フライヤーズ(NHL)、ユニオン(MLS)とスポーツ観戦は一年中楽しむことができますし、ロッキーの銅像で有名な 全米でも有数の収蔵品数を誇るフィラデルフィア美術館もあります。名物料理チーズステーキはぜひ一度話のネタに試していただきたいと思います。
 日本に帰国して4年以上経過しましたが、海外で生活しながら基礎研究を行う貴重な機会をいただいたことで、 臨床医としても一人の人間としても更に視野を広げることができたと実感しております。2013年に当講座が担当した国際学会、16th ARSRの運営や現在の医局長業務にも当時の経験が大いに役立っています。
近年世界各地で行われる国際学会に参加する若手医局員が増えてきており、彼らの間には以前にも増してグローバルな視野が育まれています。海外留学をする医局員も今後ますます増えてくると思います。
 臨床研修医・学生の皆さん、耳鼻咽喉科は幅広い領域、多種多様な疾患を扱う科なので、入局後も多くの選択肢があり、将来 活躍の場に困ることは決してありません。昭和大学医学部耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座は、皆さんの多種多様なニーズに応えることができる医局です。耳鼻咽喉科に興味を持っている臨床研修医や学生の皆さんが一人でも多く我々の仲間に加わってくださることを願ってやみません。

渡邊 荘
(平成13年入局)

 2009年9月から2011年6月までThe University of Chicago (U of C) の耳鼻咽喉科・頭頸部外科に留学させていただきました。U of C は1890年にJohn Rockefeller によって創設された大学です。全米や世界大学ランキングでは常にベスト10にランキングされる大学であり、中でもビジネススクールは全米でも1・2位を争 うレベルです。Medical School と病院も全米で10-20位に常にランキングされ、耳鼻咽喉科に関してはChicagoが位置するアメリカ中西部でトップレベルいう評価を得ています。私はチーフのRobert M. Naclerio 教授以下スタッフ4人のもと、research fellow が私1人という状況で鼻科学の研究 - (1)慢性副鼻腔炎患者の末梢血制御性T 細胞へのステロイドの影響、(2)慢性副鼻腔炎に対するビタミンD の効果、(3)ゲノム解析技術を応用した副鼻腔細菌叢の解析 - を行いました。
 日本人にとってChicagoは大きいながらもあまり馴染みのない都市ではありますが、有名な美術館・オーケストラ・オペラ・プロスポーツ(野球・バスケットボール・アイスホッケー・アメフト)など見所がいっぱいです。またシカゴは摩天楼発祥の地としても知られ、中心部に は20世紀初頭から建っているものをはじめとして高層建築物が密集しています。これら建築物はほとんどが観光スポットになっており、シカゴには有名建築物 を見て歩いたりシカゴ川から船で眺めるツアーがあります。私も休みを利用して色々なものを見て回りました。
 医師になりたての頃は留学するなど夢にも思ってもいませんでしたが、実際に留学してみると、研究に限らず様々な経験をして、また色々な人と関わることができるなど、貴重な時間を過ごすことができたと思っています。もしも留学したいと考えている人がいたら、研究内容にかかわらず「とりあえず」留学して色々やってみることをお勧めします。自分の将来につながる「何か」を得られるかもしれません。